Luna Somnium

親愛なるあなたへのお手紙として

たゆたう雲が集う森――タニガワマリコ/Art Mall

 

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 Art Mallさんで開催されていたタニガワマリコさんの個展、『たゆたう雲が集う森』におうかがいしてきました。

 

 雲、森、流星、異邦、歌……と絵から流れてくる空気を言葉に置き換えてならべれば終わらないしりとりがはじまって、終わらないしりとりでその世界を囲めば青い円環ができ、画を見つめているものはその青い輪のなかに知らず知らずに招かれている。やさしくてあたたかくて保護された場所の、風景のなかに。絵画を眺めながら懐かしさが胸に蘇ったのは、きっとそのため。

 

 マリコさんの絵からいつもわたしは、ノスタルジーを感じる。

 

 そのパステルカラーは明るさをこえて深みを携える郷愁の色で、物言わず問いかける瞳の奥に広がる星と眼差しが交差するとき、懐かしいひとに再会したような気持ちになる。

 

 懐かしいひと、それは特定の「誰か」ではなくいつかの自分であるのかもしれなくて、飾られた絵をやはりしりとりでもするみたいに輪を描いてぐるぐると巡って眺めながら、ある歌を想い出そうとしていた。それがなんの歌だったのか、題名も音色も想い出せないのに、この絵からなにかの歌を「想い出す」ような気がするということは自分の意識が理解していて、それはわたしにとってとても「懐かしさ」を誘われる歌であることはわかっていながら、どうしても展示を拝見しているときにはそれを記憶の屋根裏部屋から引っ張り出してくることができなかった。

 

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 けれども帰路につきながら突然ひらめくように気づいた。あの歌は『時の旅人』だった、と。

 

 子供のころに、合唱で唄った歌。

 

 “忘れかけていた日々 すべてのものが 友達だった頃” “汗をぬぐってあるいた道 野原で見つけた小さな花 幼い日の 手のぬくもりが帰ってくる” “やさしい雨にうたれ 緑がよみがえるように 涙のあとにはいつも君が そばにいて 生きる喜び おしえてくれた”

 

 それを想い出すと同時にフレーズとメロディがわたしのなかを柔らかい風みたいにとおりすぎていった。幼いころ、それを音楽の授業で唄っているわたしはすでにその時点でこの楽曲を「郷愁に満ちた懐かしい歌」だと感じていた。瞬く間に過ぎてゆく時、現在の色や形や温度をかたちづくっている過去、“いつか”の道を歩いている誰かが、“かつて”自分の背中に置いて眠らせていた風景を記憶の蓋をひらいて「想い出す」歌なのだと。

 

 マリコさんの絵からその歌を「想い出した」とき、それをくちずさんでいた子供のころのわたし自身と繋がって交差した。そのようにしていつでも変わらない微笑みを約束してくれるものが絵にも歌にもあり、そこに輝きと祈りがこめられていて、だからわたしの愛するものはみな、わたしにとって「懐かしい」のかもしれない。そんなことを考えていました。

 

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 いつかの“わたしたち”みたいなこの子。

 

 

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 まさに「時の旅人」のごとき横顔。

 

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 そして美しいかたが慈愛を宿して光のなかで虹色の翼をやすめていました。

 

 

 いろいろな「顔」をもつタニガワマリコさんの作品たちですが、その根底に流れているのはやはり「懐かしさ」だと感じるのです。――わたしにとっては。